古墳時代初頭の甲斐の様相
山梨県は縄文遺跡の宝庫として著名だが、甲府盆地では弥生時代前期から中期にかけての遺跡は少ない。ところが、弥生時代も終わりに差し掛かった頃、静岡県の天竜川以東地域から相模湾西部地域に勢力を張っていた帯縄文土器群の集団が山を越えて曽根丘陵や峡西地域に進出してきた。その集団が築造したのが上の平周溝墓群である。
上の平遺跡の方形周溝墓は大部分が隅の一か所に陸橋を残すタイプであるが、立石遺跡の第9号方形周溝墓の周溝は一辺のほぼ中央に陸橋を設け、狭間Ⅱ期からⅢ期への移行過程の垂下口縁壺(パレススタイル壷)が出土したこともあり、上述の集団以外にも濃尾勢力も進出を企てたようだ(『山梨県埋蔵文化財センター調査報告書 第110集 立石・宮の上遺跡』山梨県教育委員会/編)。
また、甲府盆地北部の八ヶ岳山麓には信濃地方から櫛描文土器群を使用する人びとがやってきて一つの地域勢力を形成。彼らは朝鮮半島との交易ルートを持つ人々であることが墓の副葬品から分かる。
このように、古墳時代幕開け時の甲斐は、さまざまな出自を持った勢力が入り乱れた様相を呈しており、まだ「甲斐」という一つの文化地域を形成するには至っていなかった。
甲斐の古墳編年
ここで山梨県の古墳編年を示す。下図は、『帝京大学文化財研究所研究報告第19集』所収「山梨県笛吹市亀塚古墳の研究」(櫛原功一/著・2020年)より転載したものだ。小平沢古墳の登場によって、甲斐の古墳時代の幕が上がるが、近年注目されているのは、この図では白抜きになっていて築造時期が確実に決まっていない亀甲塚古墳で、甲府盆地には早くから中道地域以外にも大きな力を持った勢力がいた可能性がある(亀甲塚古墳の項を参照)。
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上の表からも分かる通り、甲府盆地では4世紀後半まで方形周溝墓の築造も続いており、龍王・甲府周辺では、後期から終末期の古墳の造営が盛んになるが、前期の支配者層は方形周溝墓を築造していたことが分かる。

県立考古博物館に展示してある甲府市千塚の榎田遺跡(甲府駅の北西約3.5㎞)出土のS字甕。榎田遺跡では、陸橋が一辺の中央にあるタイプの方形周溝墓が見つかっており(1号墓)、このようなS字甕が出土している。
S字甕は東海勢力かもしくはその影響を受けた人びとが作った土器で、この形式はおそらく古墳時代前期前半のころのもの。S字甕は甲府盆地の遺跡からはよく見つかる。
甲府市

上の平遺跡
うえのだいらいせき
上の平方形周溝墓広場



方形周溝墓群の復元を見られる場所としては国内最大級で、ホーケーシューコーバー垂涎の遺跡。
発見されたのは128基(説明板によるが、考古博物館のパネル展示では125基)で、築造時期は弥生時代末期の2世紀末から3世紀前半にかけて。四隅の一か所に陸橋を残すタイプがほとんどだが、陸橋の方位は遺跡全体で統一が取れているわけではない。住居跡は見つかっておらず、ここは完全な墓域であった。かなりの密集度を示し、切りあいも多いが、切りあっている場合も周溝までで丘を潰してその上に新たな墓を作ることはしていない。
表示されているのはそれらのうちの35基。最大規模の1号墓(約23m×約18m)とその周辺の2号墓、3号墓は当時の様子に近いイメージで復元され、残りの32基は植栽によって表現されており、迷路遊びができるようになっている。
圧倒的な景観には興奮を禁じ得ない。

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45
小平沢古墳
こひらさわこふん

山梨県で唯一の前方後方墳にして県内で最初の古墳。
前方後方墳によくある山頂の立地で、とくに整備はされておらず、冬であれば藪が薄いため墳丘に登ることができる。説明板も標柱もない。
S字甕が出土していることから、栄えある甲斐初の古墳は東海勢力の末裔が築造した模様だ。様々な出自の勢力が甲府盆地での覇権を争った中、4世紀初頭の頃には東海系勢力が一歩抜きに出た存在であった可能性が高い。
45m(DB)
2~3期
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169
甲斐銚子塚古墳
かいちょうしづかこふん








丸山塚古墳の西側にある墳丘長169mを誇る山梨県最大の前方後円墳。築造された4世紀後半の時点では東日本最大の規模を誇り、ヤマト王権の東国への勢力伸長を考察する上ではこの上なく重要な古墳。
いつ訪れても綺麗に整備されており、ここを初めて訪れた多くの方が、「山梨にもこんなに大きくて綺麗な古墳があったんだ!」と感動する。
墳頂からの眺望も素晴らしく、季節ごとにそれぞれの美しい景色が見られるため、何度訪れても飽きない。
3~4期
169m(説)

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甲府駅南口には煮干しラーメンの「匠庵」があります。つけ麺好きならつけ麺をチョイスしましょう。飲んだ後でもいけます。

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丸山塚古墳
まるやまづかこふん


26
かんかん塚古墳

さかづき塚

紛らわしいが、古墳ではなく中世の塚。
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岩清水遺跡1号墓

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岩清水遺跡2号墓

2号墓の直径は約30mで、1号墓ともども周溝墓としたら最大級のものになる。古墳時代中期に至ってもこういった墳墓を古墳と呼ばず、周溝墓と呼んだり、低墳丘墓と呼ぶということは、一線を越えることのできない何かが存在するのかもしれない。なお、名称上のアイコンは円墳としておいた。
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岩清水遺跡3号墓

3号墓は弥生時代後期の円形周溝墓。とても小さくて可愛らしいので、登頂するのが可哀そうな気がします。
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山梨県立考古博物館
やまなしけんりつこうこはくぶつかん
甲府市下曽根町923
055-266-3881
月曜休館
9時~17時
一般220円
⇒公式サイト









鳥居原狐塚古墳出土・赤烏元年銘神獣鏡(複製)とその復元品
旧石器時代から近世甲府城跡までの各時代の遺物が大集合しており、とくに縄文時代と古墳時代の展示は質量ともに素晴らしい。
楽しくて仕方がないため油断しているとすぐに時間が経過するため時間がない場合は気を付けよう。
ザーッと流すだけなら1時間、少し落ち着いて見るのなら2時間、じっくり見るのなら3時間。たまに開催している企画展も素晴らしいことが多いため、場合によってはプラス1時間必要か。
何度訪れも飽きないし、また行きたいと思う博物館だ。
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考古博物館の見学後のランチ、もしくは見学前の腹ごしらえには、博物館近くの「宮古」がお勧め。ヴォリューム満点のランチがいただけます。山梨はほうとうが有名ですが、夏は冷たいうどんも美味しいですよ。

ソースカツ丼セット

笛吹市

花鳥山遺跡
はなとりやまいせき

縄文時代前期後半の集落跡で、現在はリニアモーターカーの実験線が見下ろせることで有名。
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一の沢遺跡
いちのさわいせき


山梨県立考古博物館の人気者・いっちゃんが出土した縄文時代中期を中心に展開した集落跡。ただし、説明板も標柱も立っていない。
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亀甲塚古墳

現状では円墳に見えるが、元々は前方後円墳か帆立貝形古墳であったことが古墳の名前から推定できる。
『帝京大学文化財研究所研究報告第19集』所収「山梨県笛吹市亀甲塚古墳の研究」(櫛原功一/著)によると、墳形に関しては「現段階で言及するのは厳しい」とするものの、「あえて推測するならば」として、内径32mの周溝の内側に直径25m以上、高さ4m程度の後円部をもつ全長40m以上の前方部が低平な前方後円墳と考えられるとしており、その築造時期は、3世紀後半から末としている。
果樹園の中にあるため、所有者の許可をいただいて見学しよう。
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92
岡銚子塚古墳
おかちょうしづかこふん

2018年11月7日撮影





甲斐銚子塚古墳の弟分のような雰囲気を漂わせる前方後円墳で、墳丘長は92mある。
甲府盆地はなんとなく古代から一つのまとまりであったように考えがちだが、甲斐銚子塚古墳のある中道地域とは別に、この地域では、もし亀甲塚古墳が前期前半の築造となると、中道とは別系統の勢力がいて、岡銚子塚古墳がその系譜に連なる可能性が高い。ただし、両者が並び立っていたとしても、墳丘の大きさからすると中道の勢力の方が力があったと想定できる。
この古墳からも甲斐盆地の素晴らしい眺めが見られる。
92m(説)

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山梨に来たら必ず食べたくなるのが「鳥もつ煮」です。甲府駅近くの飲み屋でも食べられるので飲みながらでもいいですし、ランチでしたら「奥藤本店」の手打ち蕎麦と鳥もつ煮の定食や、鳥もつをご飯と一緒にたらふく食べたいなら、鳥もつ丼がお勧め。大盛は結構多いので要注意。ランチタイムは行列に並ばないといけないかもしれません。



23
盃塚古墳


56
竜塚古墳




姥塚古墳



國立神社


姥塚古墳のすぐ近くにある神社。
山梨県神社庁のサイトによると、『甲斐国志』に国常立尊を祀るとあり、一説に国庁(国衙)に関連して創建されたともいわれている。また、同じ笛吹市の一宮町塩田にも国立神社があり、そちらは、国常立命とともに甲斐国造・塩海足尼が祀られている。
拝殿の前に立石があるのが面白い。
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13
経塚古墳
きょうづかこふん


甲斐国分寺跡



甲斐国分尼寺跡


釈迦堂遺跡博物館
しゃかどういせきはくぶつかん
笛吹市一宮町千米寺764
0553-47-3333
火曜日・祝日の翌日休館
9時~17時
一般400円
⇒公式サイト

土偶と土器に重きを置いた洗練された展示

水煙文土器


中央高速の釈迦堂PAを作る際に発掘調査がなされた縄文時代の集落跡である釈迦堂遺跡から出土した遺物を展示する博物館。釈迦堂PAに車を置いたまま歩いて行くこともできる。
普通の縄文遺跡からはそれほど見つからない土偶がここでは1166点も見つかり、三内丸山遺跡が明らかになるまでは国内で最もたくさんの土偶が出た遺跡だった。
2020年にリニューアルオープンし、さらに展示が洗練され、とくに土偶の展示は圧巻だが、水煙文土器という山梨発祥の素晴らしい土器が見られることもこの博物館の大きな魅力だ。
じっくり見るなら最低でも1時間は欲しいし、企画展や特別展をやっている場合はその時間も勘案して見学時間をスケジューリングしよう。
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たまには贅沢をして、笛吹市内の「ゼルコバ」のフレンチはいかがでしょうか。ランチだったらリーズナブル。本当はワインも一緒に飲めれば良いですが、車で探訪しているときは無理ですね。予約してから行きましょう。




南アルプス市

南アルプス市ふるさと文化伝承館
みなみあるぷすしふるさとぶんかでんしょうかん
野牛島2727 「湧暇李の里」内
055-282-7408
木曜日休館
9時30分~16時30分
入館無料
⇒公式サイト




南アルプス市の歴史を考古遺物やパネル展示などで紹介する施設。
1階は弥生時代から近代までの展示で、中世の甲斐源氏についての知識も得られ、御勅使川や釜無川流域の人びとが昔から川の氾濫とどのように戦ってきたか、「水」とどのように付き合ってきたのかが非常によく分かる。
2階は、旧石器時代と縄文時代の展示室があり、とくに縄文遺物は、展示されている遺物自体が素晴らしく、非常に見やすく展示されている。目玉は、鋳物師屋(いもじや)遺跡出土の国指定重要文化財の土偶「ラヴィ」と、有孔鍔付土器の「ぴーす」。国宝級の素晴らしさだ。
スタッフの方が親切に展示解説をしてくれるのも魅力で、1階のミュージアムショップには拘りのグッズも売っているのでぜひ見てみよう。また、無料のパンフレット類がたくさんあるのも嬉しい。
スタッフの解説を聴きながらじっくり見るなら、見学時間は3時間は確保して訪問しよう。
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探訪懸案箇所
・金生遺跡
・北杜市考古資料館
・北杜市郷土資料館
・大丸山古墳
・天神山古墳
・加牟那塚古墳
・万寿森古墳