最終更新日:2024年9月20日
※写真はすべて稲用が撮影しました
※写真はなるべく文様がよく見えるように明るめに補正していますので、実物とは色味が違うことがあります
※展示ケースの反射で余計なものが写り込んでいるものがあります
※今一ピンが甘いものがあります
※撮影禁止のものは写していないつもりですが、万が一掲載不可のものがあったらお知らせください
※型式を始めとして説明文におかしな点がありましたらご教示ください
※紹介した遺物が現在その施設で展示されているとも限らないのでご注意ください
※各写真はクリックで拡大します
大木(だいぎ)式土器の標式遺跡は、宮城県七ヶ浜町の大木囲(だいぎがこい)貝塚です。
大木式土器の編年と北東北の土器との併行関係は下表のとおりです(諸説あります)。
上表の「十和田火山の噴火」は、十和田中掫(ちゅうせり)テフラ(To-Cu)の降下時期で、約5900年前です。この噴火のあと、北東北では円筒土器文化が発生し、青森県ではかの有名な三内丸山遺跡の大集落が突如として現れました。
このように、東北地方の前期から中期の土器型式は、大木式と円筒式がツートップ的地位にいるわけですが、分布的には概ねこのようになっています(時期によっても変わりますのであくまでもイメージとして捉えてください)。
大木式土器は、編年に示されている通り、前期から中期にかけて長期間繁栄した壮大なスケールの土器です。とくに大木8b式は南北に勢力を拡大し、北では円筒土器文化に変容を促し、榎林式土器という大木系の土器を誕生させるに至りました。タイミング的にはその後の三内丸山遺跡の解体へと繋がります。また、南では、東関東において加曽利E式土器のルーツとなりました。このように猛威を振るった大木8b式土器のことを、私は「縄文時代の伊達政宗」と呼んでいます。
宮城県・福島県・岩手県の博物館や資料館ではお目にかかる機会が多いので、当該地方へ旅行に行くときは、大木式土器の特徴を知っていると面白さが増すでしょう。各型式について詳しく説明している施設は、大木囲貝塚の隣にある七ヶ浜町歴史資料館で、大木8a式や大木9式の優品が見られるのは、宮城県東松島市にある奥松島縄文村歴史資料館です。
前期大木式
大木1式
南東北では、前期のトップバッター土器は上川名式土器で、それに続いて造られたのが大木1式土器です。上川名式は底が丸くなっていて自立できませんが、大木1式は平底で普通に置けるようになります。関東では、前期土器が作られ始めた当初から底部が尖底から平底に移行しますが、南東北の土器は、それより少し遅れて、大木1式をもって平底に移行します。大木1式は、概ね関東地方の関山式土器と併行です。
キャプション情報
タイトル:縄文時代前期前葉 大木1式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木1式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
大木2a式
既述した通り、大木2a式と2b式とを分けるエピソードは、十和田中掫テフラの降下です。なお、大木2a式が造られた時期、関東では黒浜式土器が造られ、大木2b式の時期には、諸磯a式土器が造られ、北東北では、大木2b式と同じ頃、大木式土器と並び称される円筒土器が出現します。前期後半から概ね中期の終わりに至るまで、東北地方は、南の大木式土器文化圏と北の円筒土器文化圏に分かれて推移します。
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タイトル:縄文時代前期前葉 大木2a式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木2a式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
大木2b式
キャプション情報
タイトル:深鉢
出土地:岩手県遠野市綾織新田遺跡
土器型式:大木2b式
遠野まちなか・ドキ・土器館
2022年7月18日撮影
キャプション情報
タイトル:なし
出土地:宮城県石巻市中沢遺跡
土器型式:大木2b式
石巻市博物館
2023年7月15日撮影
珍しい角筒形土器
大木3式
大木3式になると、装飾的な口縁部のものが現れます。また、器面にも粘土紐でちょっとした装飾を施すものも出てきます。口縁部から紐を垂らしたような造形は、関東や北海道の他の型式の土器でも見られるようにります。この頃まで、胎土に繊維を混入する技法が残りますが、大木4a式からは見られなくなります。なお、この時期には関東では諸磯b式土器が造られ始めます。
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タイトル:縄文時代前期中葉 大木3式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木3式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代前期中葉 大木3式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木3式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
大木4式
大木4式では粘土紐でのダイナミックな造形が現れるようになります。粘土紐は幅1㎝程度の太めのものとその半分くらいの細めのものがあり、太めのものは菱形を作ったり、X字形や三角形の文様を貼り付けたりして、細めの粘土紐では渦巻文様など少し繊細な文様を表現します。
なお、小林達雄氏は『縄文土器の研究』のなかで、「厳密にいえば、前期大木式のうち、4式・5式・6式は型式の系統性が明らかであり、一つの様式として認識されるが、1式・2式・3式をこの様式に含めることには問題がある」と述べ、大木1式と2式はむしろ羽縄文系土器の流れのなかで把握すべきとしています。
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タイトル:縄文時代前期中葉 大木4式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木4式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
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タイトル:縄文時代前期の土器
出土地:宮城県登米市糠塚貝塚
土器型式:大木4式
東北歴史博物館
2024年9月15日撮影
テーマ展示「仙台湾の貝塚」
大木5式
大木5式では、同じ大木式文化圏内でも地域差が顕著になる時期で、宮城県内と北上川中流域の岩手県域や福島県の会津地方では文様や施文方法が異なります。
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タイトル:縄文時代前期の土器
出土地:宮城県登米市糠塚貝塚
土器型式:大木5式
東北歴史博物館
2024年9月15日撮影
テーマ展示「仙台湾の貝塚」
キャプション情報
タイトル:なし(前期)
出土地:岩手県北上市滝ノ沢遺跡
土器型式:不詳
北上市立博物館
2022年7月18日撮影
上の大木5式土器と似ている
大木6式
大木6式期には、大木式土器は北東北への進出を強めますが、反対に南の関東地方の土器が大木式土器文化圏に進出してきます。
キャプション情報
タイトル:縄文時代前期末葉 大木6式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木6式
七ヶ浜町歴史資料館
2021年9月18日撮影
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タイトル:深鉢 縄文時代前期
出土地:岩手県陸前高田市大陽台貝塚
土器型式:不詳
大船渡市立博物館
2024年9月12日撮影
大木6式に似ている
中期大木式
大木7式(7a式、7b式)
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タイトル:縄文時代中期前葉 大木7式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木7式(aかbかは不明)
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
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タイトル:縄文時代中期前葉 大木7式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木7式(aかbかは不明)
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
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タイトル:深鉢
出土地:岩手県盛岡市大館町遺跡
土器型式:大木7a式
盛岡市遺跡の学び館
2022年7月18日撮影
大木8a式
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タイトル:キャリパー形深鉢
出土地:岩手県盛岡市大館町遺跡
土器型式:大木8a式
盛岡市遺跡の学び館
2022年7月18日撮影
大木8b式
冒頭で述べた「縄文時代の伊達政宗」です。関東地方の人は加曽利E式と似ていることに気づくと思いますので、何となく安心できる土器じゃないでしょうか。この土器のデザインのお陰でこの土器が南北に勢力を拡げたというわけではないと思いますが、万人受けしそうな洗練された美しい土器だと思います。
大木8b式期の文様の変化については、岩手県田野畑村民俗資料館の展示パネルが参考になるでしょう。ただし、田野畑村は岩手県でも沿岸部のやや北側(盛岡よりも高緯度)ですので、そういった位置であることを気にしてください。
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タイトル:日本最大級の縄文土器
出土地:岩手県盛岡市大館町遺跡
土器型式:大木8b式
盛岡市遺跡の学び館
2022年7月18日撮影
器高93㎝の深鉢
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タイトル:縄文時代中期中葉 大木8b式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木8b式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉 大木8b式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木8b式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉 大木8b式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木8b式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉 大木8b式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木8b式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉 大木8b式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木8b式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉 大木8b式
出土地:大木囲貝塚
土器型式:大木8b式
七ヶ浜町歴史資料館
2022年7月1日撮影
キャプション情報
タイトル:深鉢(大木8b式)
出土地:岩手県遠野市綾織新田遺跡
土器型式:大木8b式
遠野まちなか・ドキ・土器館
2022年7月18日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲地点
土器型式:大木8b式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲地点
土器型式:大木8b式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期中葉
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲地点
土器型式:大木8b式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:蛇の装飾がある深鉢
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲地点
土器型式:大木8b式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
大木9式
器面の文様が、縦方向の区画になる傾向があります。大木8b式から9式への変化については、田野畑村民俗資料館の展示パネルが参考になるので再掲します。
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タイトル:縄文時代中期の土器
出土地:宮城県石巻市南境貝塚
土器型式:大木9式
東北歴史博物館
2024年9月15日撮影
テーマ展示「仙台湾の貝塚」
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タイトル:深鉢(大木9式)
出土地:岩手県遠野市張山遺跡
土器型式:大木9式
遠野まちなか・ドキ・土器館
2022年7月18日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期の土器
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲あるいは畑中地点
土器型式:大木9式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期の土器
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲あるいは梨木囲地点
土器型式:大木9式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期の土器
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲あるいは梨木囲地点
土器型式:大木9式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期の土器
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲あるいは梨木囲地点
土器型式:大木9式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
キャプション情報
タイトル:縄文時代中期の土器
出土地:宮城県東松島市里浜貝塚台囲あるいは畑中地点
土器型式:大木9式
奥松島縄文村歴史資料館
2023年7月15日撮影
大木10式
大木10式の新段階のものを後期土器とする研究者もいます。
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タイトル:深鉢(大木10式)
出土地:岩手県遠野市張山遺跡
土器型式:大木10式
遠野まちなか・ドキ・土器館
2022年7月18日撮影
キャプション情報
タイトル:樽形壺(大木10式)
出土地:岩手県遠野市張山遺跡
土器型式:大木10式
遠野まちなか・ドキ・土器館
2022年7月18日撮影
参考資料
・『縄文土器の研究 普及版』 小林達雄/著
・『大木式土器の世界』 七ヶ浜町歴史資料館/編
・「東北地方北部の円筒式・大木式土器編年と十和田中掫テフラ(To-Cu)について」 市川金丸/著