形象埴輪の逸品

最終更新日:2023年6月17日

 

 埴輪は大きく分けて、円筒埴輪形象埴輪に分けられます。朝顔形埴輪は、円筒埴輪に含まれます。形象埴輪はさらに、人物埴輪動物埴輪家形埴輪器材埴輪に分けることが一般的です。本稿では、稲用が列島各地で見てきた形象埴輪のうち、とくにグッときたものをご紹介します。

 

1.人物埴輪

 地域によって顔の表情がまったく異なるところが面白い人物埴輪ですが、茨城県や栃木県では笑顔の人物埴輪が多く、見ているとこちらまで幸せな気持ちになります。顔に入墨あるいはペインティングを表現したものもあり、儀式の際のペインティングではなく、入墨だとしたらそれは特殊な身分を示している可能性があります。

 

石川県小松市・矢田野エジリ古墳

 この巫女の埴輪は、指先の造形が素晴らしくて驚きました。元々は器を持っていた可能性が高いです。髪型も「古墳島田」と呼ばれるスタイルをきちんと表現していて、手を抜いていません。

小松市埋蔵文化財センターにて撮影
小松市埋蔵文化財センターにて撮影

 

和歌山県和歌山市・大日山35号墳

 頭部の両面に顔がある衝撃的な埴輪。まるで日本書紀に登場する飛騨の両面宿儺のようですが、この種の埴輪は類例がありません。2023年11月3日出発の紀伊・和泉の現地講座の際に見学します。

紀伊風土記の丘資料館にて撮影

 

埼玉県熊谷市・野原古墳

 いわゆる「踊る埴輪」。最も有名な埴輪の一つでしょう。これが出土したのち、これと同じように左手上げて、右手を下げている埴輪が全国から見つかり、馬形埴輪と一緒に出土することから、馬飼いを表現したものだと考えられるようになっています。この埴輪も馬飼いの可能性がありますが、個人的には踊っている埴輪がいてもいいと思いますし、その方が楽しい。左が男、右が女です。

東京都台東区・東京国立博物館本館にて撮影

 

千葉県横芝光町・姫塚古墳

 いわゆる「ユダヤ人埴輪」です。

芝山町立芝山古墳はにわ博物館にて撮影

 

千葉県横芝光町・殿塚古墳

 この「這いもとろう人」は初めて見た時から気になっています。

芝山町立芝山古墳はにわ博物館にて撮影

 

千葉県芝山町・殿部田1号墳

 絶対この人、ラッパーでしょう。

芝山町立芝山古墳はにわ博物館にて撮影

 

奈良県三宅町・石見遺跡

 育ちの良い男の子のような埴輪。橿博のマスコットキャラクター「イワミン」のモデルになった埴輪です。

奈良県橿原市・橿原考古学研究所附属博物館にて撮影

 

2.動物埴輪

 動物埴輪でよく見かけるのは、馬、猪、犬、鹿、そして鳥です。鳥は、水鳥と鶏があります。ただし、東国には変わった動物埴輪があって面白いですよ。

 

2-1.牛形埴輪

 牛形埴輪は、全国で10例ほどしか見つかっていません。馬に関しては5世紀以降に国家の政策として繁殖が盛んになったと考えられますが、牛がいったいどのような扱いを受けたのか、詳しいことは分かりません。

 

奈良県田原本町・羽子田1号墳

奈良県田原本町・唐古・鍵考古学ミュージアムにて撮影

 

大阪府高槻市・今城塚古墳

 継体天皇の真陵とされる今城塚古墳からも出土しています。中堤の埴輪群像の中に立てられていました。2023年12月15日出発の淀川流域の現地講座の際に見学します。

今城塚古代歴史館にて撮影

 

和歌山県和歌山市・大日山35号墳

 11月3日出発の紀伊・和泉の現地講座の際に見学します。

和歌山県和歌山市・紀伊風土記の丘資料館にて撮影

 

2-2. 馬形埴輪の初期型

 馬形埴輪が造られ始めた頃は、両眼が顔の前についています。もしかしたら、埴輪職人も馬を見たことが無かったのかな、とか思ってしまいますが、なかなかこれが可愛いのです。

群馬県大泉町・古海松塚11号墳

群馬県高崎市・群馬県立歴史博物館にて撮影

 

群馬県渋川市・津久田甲子塚古墳

 とくに私はこの埴輪が好き。全国で一番可愛い馬形埴輪だと思います。

群馬県渋川市・渋川市赤城歴史資料館にて撮影

 

2-3. 見返り鹿埴輪

 鹿形埴輪は結構ありますが、後ろを振り返っている造形のものは珍しく、島根県松江市の平所遺跡、奈良県橿原市の四条古墳群、静岡県浜松市の辺田平1号墳各出土の3つしか見つかっていません。

 

島根県松江市・平所遺跡

 接合作業をした人は、当初は後ろを振り返っていることを想定していなかったため、頭部と胴体がくっつかずに悩んだそうです。

島根県松江市・島根県立八雲立つ風土記の丘 展示学習館にて撮影

 

奈良県橿原市・四条古墳群

奈良県橿原市・橿原考古学研究所附属博物館にて撮影

 

大阪府寝屋川市・太秦古墳群

 頭部のみの接合ですが、口と鼻が少し横を向いていることから、振り向いている造形ではないかといわれている鹿形埴輪です。2023年12月15日出発の淀川流域の現地講座の際に見学します。

大阪府寝屋川市・寝屋川市立埋蔵文化財史料館にて撮影

 

2-4. 仔犬形埴輪

 犬形埴輪は結構ありますが、見た目から仔犬だと言われているものは少ないです。

 

2-5. 翼を広げた鳥形埴輪

和歌山県和歌山市・大日山35号墳

 鳥形埴輪はたくさん造られていますが、飛んでいるところをイメージさせるような埴輪は極めて珍しいです。2023年11月3日出発の紀伊・和泉の現地講座の際に見学します。

和歌山県和歌山市・紀伊風土記の丘資料館にて撮影

 

2-6. 熊形埴輪

群馬県藤岡市・伝十二天塚古墳

 クマの埴輪も珍しいですね。群馬県藤岡市の藤岡歴史館で見られます。過去3回開催した上野三碑の現地講座の際に立ち寄っていますので、すでに多くのAICTメンバーがご覧になっています。

群馬県藤岡市・藤岡歴史館にて撮影

 

2-7. ムササビ形埴輪

千葉県成田市・南羽鳥正福寺1号墳(後期・円墳・20m)

 国内で唯一のムササビ形埴輪。印旛郡市文化財センターに複製品が展示してあります。

千葉県佐倉市・印旛郡市文化財センターにて撮影

 

2-8. 鮭形埴輪

千葉県芝山町大里・白桝地区

 千葉県芝山町の観音教寺に少し前まであったミュージアムで見ましたが、写真撮影NGだったため手元に写真がありません。今は芝山古墳・はにわ博物館に寄託されているようです。

 

2-9. 猿形埴輪

茨城県行方市・伝大日塚古墳

 上野の東京国立博物館の本館に列島で唯一といわれる猿形埴輪が所蔵されています。猿形埴輪は現在のところこれしか見つかっていません。

東京都台東区・東京国立博物館本館にて撮影

 

3.家形埴輪

 古墳時代の建物で現在見られるものは一つもありません。遺構を見てもはっきり分かるのは、柱の建っていた穴や溝などで、上物に関しては、たまたま建築部材が残っていたケースを除けば、皆目知れません。そんな中で、家形埴輪は、当時の建物を推定する際の格好の資料になります。

 

宮崎県西都市・西都原古墳群

 いわゆる「子持」の形をした珍しい家形埴輪で、復元された当初は、本当にこの形で良いのか懐疑的な研究者もいました。実際にこういう家があったのか、それとも何か呪的な意味がある架空の産物なのか興味深いです。

東京都台東区・東京国立博物館平成館にて撮影

 

栃木県壬生町・富士山古墳

 今城塚古墳から見つかった国内最大級の家形埴輪と同規模のものが栃木県の巨大円墳の墳頂から見つかっています。写真左のものは、復元高168㎝です。

栃木県壬生町・壬生町立歴史民俗資料館にて撮影

 

 

4.器材形埴輪

4-1. 舟形埴輪

三重県松阪市・宝塚1号墳

 列島最大の舟形埴輪です。写真向かって左が船首で、船尾側に衣笠があり、王が乗る船であることが分かります。7月21日出発の伊賀・伊勢の現地講座にて見学します。

三重県松阪市・松阪市文化財センターにて撮影

 

4-2. 機織形埴輪

栃木県下野市・甲塚古墳

 赤い水玉のワンピースを着たような女性が機織りをしている埴輪です。作っている服は普段着ではなく、神に着てもらうための服でしょう。右下に置かれているのは人物の髷と両腕です。今年中に再度開催する下野型古墳の現地講座の際に見学します。

 復元するとこのようになります。

栃木県下野市・しもつけ風土記の丘資料館にて撮影

 

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