茨城県常陸大宮市・泉坂下遺跡の人面付土器【日刊遺物新聞 第6号】

壺に顔を付ける意味は何か

2023年9月26日号

 「発掘された日本列島」で撮ってきた写真を見返していたら、2012年はこれに衝撃を受けたことを思い出した。

 茨城県常陸大宮市にある泉坂下遺跡から出土した人面付土器だ。

発掘された日本列島2012にて撮影

 製作年代は縄文時代ではなく、弥生時代中期。器形は「壺」である。何のための壺か分かるだろうか?

 花をいけてリヴィングに飾っておけば、来客者を驚かせる効果はあるだろうが、来客者を驚かして何が面白いのだろうかという問題が残る。

 大きさは77㎝もあり、この種の土器としては国内最大である。顔の部分は朱で赤くなっていた。

 古代史好きの人はすぐに想像がついたと思うが、これは骨壺である。

 北関東では、縄文時代からこの頃まで、再葬といって、いったん遺体を白骨化させたうえで、このような骨壺にいれて埋葬するという風習があり、弥生中期にはとくに盛行した。

 しかし、骨壺すべてに顔が付くわけではなく、顔が付くのは稀であるため、特別な人の骨壺だったのかもしれない。

 口の形状はタマネギ部隊のそれに酷似している。

発掘された日本列島2012にて撮影

 なお、ニックネームは「いずみ」だ。泉坂下遺跡から出たので「いずみ」ちゃんなわけだが、どうせなら「坂下いずみ」というフルネームにしたらさらに存在感が増すかもしれない。

 ところで、「発掘された日本列島」は、同じ遺物が複数回登場することは少ないが、2014年にもいずみちゃんは再登場した。しかも今度はまるで子分を引き連れての登場のようだった。

発掘された日本列島2014にて撮影

 隣に小さいのがいると賑々しく感じるし、メインのアクターの両サイドにダンサーを配置するというのは、ショーの観点からすると基本的なフォーメーションである。

 なお、いずみちゃんが見つかった泉坂下遺跡は、クラツーでも2019年3月に1度だけ案内したことがある。

 国指定史跡になってそれほど経っていない頃で、遺跡に近づくと道路端には遺跡の旗が立ち並んでいて、ワクワク感を高めるのだが、現地には説明板がただ一つあるのみ。 

現地説明板を撮影

 近くまではバスで来れないので、少し離れた場所でバスから降りていただき、トボトボと田んぼの中を歩いてやってきた。

泉坂下遺跡

 歩くのが慣れていない方からしたら、わざわざ歩かせておいてこれか!と、怒り心頭に発したかもしれないが、想像力で勝負していただくほかない遺跡の典型例である。 

 

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